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バカだバカだバカだ。
あれじゃ涙より弱い部分を曝け出したようなものだ。自分で墓穴を掘ってどうする。
罪悪感もある。泉には悪気がなかった。私が勝手に激昂したのだ。
「明日からどうしよう……」
罪悪感、後悔、焦燥。色々なものがない交ぜになって、心に澱をつくっていく。
傘のことなんて、忘れるくらいに。
まただ。五代目もお陀仏となった。
泉のことばかり考えて、香水のアイデアなんてすっかり失念していた。
――落ち込んでるの、わかりやすいからさ。
雨が降っているときにすることが一つ加わった。毅然と胸を張ること。落ち込みなんて気取られてたまるか。
幸い穴は端っこの方だ。これなら使える。恥ずかしさなんて、昨日の幼稚発言と比べれば可愛いものだ。
傘を差して、背筋を伸ばす。これであの泉も、落ち込んでるから声かけよーなんて思わないだろう。どうだ、参ったか。
……声をかけてくれるわけない。今日一日、一回も口をきいてないのだ。
このまま関係が戻らなかったらどうしよう。
「ごめんね、泉……」
「勝手に人の台詞っぽく言わないでもらえます?」
「だあってお前また落ち込んでるし。どーせ昨日のこと気に病んでんだろ。俺が代わりに謝ってやったんだから、感謝したまえ」
自分で自分に謝ってますけど。
あれ? 普通に、会話してる。
「お前が教室でよそよそしくすっから、迂闊に声もかけられなかったじゃねえかどうしてくれる」
「びくびくせずに声をかければよかったじゃん。このヘタレ」
ヘタレは私だ。
「ヘタレでもなんでもいいけどさ、昨日のは本心だからな」
「は?」
泉は私の傘を取り上げ、レインコートのフードまで取り払った。
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