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雨がみるみる私の髪に染み込み、顔を流れていく。
「何すんの!」
「さあ、雨に濡れたぜ?」
「この変態。私の泣き顔、そんなに見たい?」
挑発的に言ってみると、泉は私の目を見つめて言った。
「見たいよ」
――なんで、そんな泣きそうな顔してるんだよ。泣きたいのはこっちなのに。
「や……」
「やーなこった。誰があんたみたいな変態に見せるかっての。泉クンに見せるよりは? ドブくんに見せた方がマシっていうかぁ」
「お主、この美貌をドブ以下と申すか。恥を知れ!」
さっきの表情は、気の所為だ。
帰宅後、私はまず棚の中の傘を一本取り出して、ありったけの香水を吹きつけた。
うん、全然誰のかわからない。四十代のけばけばしいオバハンの香ばしい臭いしかしない。登校中の姿を見られなければ完璧だ。あの三人組はいつも遅くに来るから、いつも通りの時間に行けば大丈夫なはず。
朝、自室の隣をこそっと覗くと、母親が寝ていた。鼾をしている。
相当お疲れのようで。タバコと酒の臭いを持ち帰るまでつけて、一体何をしてきたのかな? 娘とは一言も言葉を交わさず、一体誰とどういう会話をしてきたのかな?
家を出る前に、傘の臭いを確認した。かなり強力だ。
念のために、再度ふきつける。中までしっかりと。
大丈夫、大丈夫。
嫌な予感なんて知らないふり。
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