終章 輪廻

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終章 輪廻

 あれから数年の年月が流れた。 かつて朽ち果てた社があったその場所には、 少しだけ立派になった神社が佇んでいる。 それなりに信仰されているのだろう。 大勢とは言えずとも、参拝に来る者が途絶える日はない。  時折、人々は社の脇に立つ看板に目を向ける。 ある者は目を閉じて黙とうし、 ある者は手を合わせて首を垂れた。  看板に刻まれた伝承はこう語る。 かつてこの地を日照りが襲い、命と言う命を摘み取ったのだと。  伝承は語る。迫りくる絶望の中、 村の存亡を願い命を捧げた少女が居たと。  伝承は語る。天は少女の願いを聞き届け、 命と引き換えに雨をもたらした。 天に召された少女は村人に感謝され、 その地を救った神と共に、この神社で祀られることになったのだと。  伝承はこう締めくくる。いずれこの地を日照りが襲う時。 再び神と少女は目覚め、この地に慈愛の雨を降らせるだろうと。  最後の参拝客が立ち去り、闇の(とばり)が降りる中。 誰も居ないはずの社の中を、(うごめ)く一つの影があった。 『いつか、貴女を蘇らせてみせる』 『もっと信仰を集めるの。私と貴女の信仰を。  私が神に成れたのだから、貴女だって成れるはず』 『そしたら二人で暮らしましょう。この村を護る神として』 『だから信仰を集めなければ。  もっと、もっと、もっと、もっと』  物言わぬ白骨を抱き、頭部に優しく指を這わせながら、 女は空を仰ぎ見る。夜空を隠していた雲が霧散し、満天の星が瞬いた。 これで明日は雲一つない快晴になるだろう。 『信仰をあつめるの。もっと、もっト、もット、モット』  やがて月が地平に沈み。太陽が顔を出す。 照り輝く太陽から人々を守る雲はなく。 あの干ばつを思わせる灼熱が、再び人々に降り注いだ。 『モット、シンコウ、アナタノ、タメニ』  そして歴史は繰り返す。世のため人のため命を落とし、 長い年月の果てに自らの名前を失った少女が、神として生れ落ちるまで。
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