1章 邂逅

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1章 邂逅

 脳髄(のうずい)まで焼けそうなほど暑い日だった。 村から離れた森の中。古ぼけた小さな(やしろ)の前で、 少女が一心に祈りを捧げている。 「お願いします、お願いします」  どれだけの間そうしていたのか。 社を拝む少女の瞳は、酷く虚ろに揺らめいている。 疲労。ともすれば倒れかねないほどに憔悴(しょうすい)しながら、 少女は願掛けを続けていた。 「どうか村を助けてください。  恵みの水を与えてください」 「どうか、どう……か……」  刹那(せつな)、少女の瞳から意志が消える。 ふっと意識が遠のいて、首がくらりと崩れ落ちる。 ああ、自分はこのまま倒れてしまうのだろう。 諦めに(まぶた)を閉じた瞬間、少女は奇妙な浮遊感を覚えた。 「……えっ」  瞼を開く。暗転した世界に光が戻った。視界に広がるは白い衣。 いつの間に現れたのか、少女は見知らぬ女に抱き寄せられていた。 『ごめんなさい。見ていられなかったの』  骨まで焦がしそうな日照りの下、汗一つかかず女は謝る。 純白の着物に身を包み、髪を腰まで垂らした彼女は、 神事を(つかさど)る巫女にも見えた。  だが違う。ある一つの事実が少女の印象を否定していた。女の体は透けている。  人外だ。少女の額を、暑さとは異なる汗が伝う。 『ずっと。ずっと聞いていた。貴女の願い。  ただただ、村を思うその叫び』  でも逃げる気はしなかった。 少女は抱きかかえられたまま、女の声に耳を傾ける。 悟ったのだ。この存在は自分に害をなさないと。 なぜならば。 『でもごめんなさい。その願いを叶えるには、  あまりにも私は無力過ぎる』  頭上から投げ掛けられる声音が、 どこまでも優しく(はかな)かったから。
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