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少女の祈りは神に届いた。神は人の形を模って少女の前に姿を現す。
だが悲し気に目を伏せながら、小さく首を横に振った。
『願いを叶えるには力が要るのです。信仰と言う名の力が。
神は神として在るのではなく、信仰によって神と成る』
『永く信仰が途絶え、自らの起源すら辿れない私では、
天候を司ることは叶わない』
『私はもはや、神と呼ばれるに相応しい存在ではないのです』
神による懺悔。しかし、少女の目には力が宿る。
希望を見出したのだ。信仰こそが彼女の力。ならば崇め奉ればいい。
声高にそう語る少女に、しかし神は嘆息した。
『無理でしょう。信仰とは一朝一夕で得られるものでありません。
何より。窮地に追い込まれてから助けを求めてすがっても、
それを信仰とは呼べないのです』
無論神は知っている。
今目の前に跪く少女が、常日頃から社を清めていてくれたことを。
干ばつが村を襲う前から、毎日朝と夕には必ず訪れて祈りを捧げていたことを。
救ってやりたい。だがたった一人の少女の祈りでは、
照り輝く太陽に立ち向かうにはあまりにも淡過ぎた。
今こうして具現したのも、少女を諭し、
別の集落に逃げ延びることを勧めるために他ならない。
なのに、少女の目に光が宿る。その光の属性は狂気。
少女は爛々と目を輝かせると、崇めるべき神に言い放った。
「なら、私が貴女を神にする。私自身の信仰で」
「思いが力に変わると言うなら。あらがう手段があると言うなら。
私は絶対に諦めない」
嗚呼。神は唇を噛みしめる。気づいていたからだ。
少女の意志が向かう先。その先に破滅が広がっていることに。
『お願い。どうか考え直して』
すがるように告げる声。その言の葉が、少女の心を打つことはなかった。
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