2章 祈り

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 少女の祈りは神に届いた。神は人の形を(かたど)って少女の前に姿を現す。 だが悲し気に目を伏せながら、小さく首を横に振った。 『願いを叶えるには力が()るのです。信仰と言う名の力が。  神は神として在るのではなく、信仰によって神と成る』 『永く信仰が途絶え、自らの起源すら辿(たど)れない私では、  天候を司ることは叶わない』 『私はもはや、神と呼ばれるに相応しい存在ではないのです』  神による懺悔(ざんげ)。しかし、少女の目には力が宿る。 希望を見出したのだ。信仰こそが彼女の力。ならば(あが)(たてまつ)ればいい。 声高にそう語る少女に、しかし神は嘆息(たんそく)した。 『無理でしょう。信仰とは一朝一夕で得られるものでありません。  何より。窮地(きゅうち)に追い込まれてから助けを求めてすがっても、  それを信仰とは呼べないのです』  無論神は知っている。 今目の前に跪く少女が、常日頃から社を清めていてくれたことを。 干ばつが村を襲う前から、毎日朝と夕には必ず訪れて祈りを捧げていたことを。  救ってやりたい。だがたった一人の少女の祈りでは、 照り輝く太陽に立ち向かうにはあまりにも淡過ぎた。 今こうして具現したのも、少女を諭し、 別の集落に逃げ延びることを勧めるために他ならない。  なのに、少女の目に光が宿る。その光の属性は狂気。 少女は爛々(らんらん)と目を輝かせると、崇めるべき神に言い放った。 「なら、私が貴女を神にする。私自身の信仰で」 「思いが力に変わると言うなら。あらがう手段があると言うなら。  私は絶対に諦めない」  嗚呼。神は唇を噛みしめる。気づいていたからだ。 少女の意志が向かう先。その先に破滅が広がっていることに。 『お願い。どうか考え直して』  すがるように告げる声。その言の葉が、少女の心を打つことはなかった。
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