4章 奇跡

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4章 奇跡

 雨雲が天を覆っている。稲光(いなびかり)で地を照らし、 大粒の雨を叩きつけている。 からくも生き残った村人達が歓喜に踊り狂う中、 神が少女の亡骸(なきがら)を抱き締めて慟哭(どうこく)していた。 『叶えたかったの。貴女の願いを』 『助けたかったの。貴女の命を』 『なのに、なのに゛っ……』  彼女が涙を一滴こぼす度に、その雫が雨となり人々に恵みを与える。 それは少女とて例外ではない。 限界まで干からび、骨のようにやせこけ乾いたその肌を、神の涙がつたっていった。  だが。(むくろ)が息を吹き返すことはない。 『貴女が死んでしまっては、何の意味もないじゃない゛っ……!』  神は知っていた。彼女の祈りが、自身の救済を願うものではなかったことを。 知っていた。むしろ自己犠牲に類するものであることを。 知っていた。その願いが救う対象に――神自身が含まれていたことを。  知っていたのだ。少女には生き残る術があった。 村を捨てて逃げ出せばいい。実際逃げる者も居たのだから。  少女が逃げなかった理由。この村と運命を共にした理由。 それはひとえに、故郷への愛情がなせる業だったのか?  否定はしない。それも一つの要因ではあっただろう。 でも神は知っていた。 彼女が命の灯を消してでも、なおこの地に残ることを決めた理由。 そこに。この地に宿る神への愛情が含まれていたことに。
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