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まだ、人々の世が平穏の中にあった頃。
小さな森で遊ぶ中、少女は小さな社を見つけた。
人に忘れ去られたのだろうその社は、見るも無残に朽ち果てていて。
見た者に畏怖の念を抱かせるどころか、薄気味悪さを感じさせただろう。
なのに少女は驚くべき行動に出た。一目散に駆け出していった後、
水がたっぷり入った桶と清潔な布を手に戻ってきた。
そして丹精込めて社を清掃したのだ。
何度となく布を黒く染め、そのたびに川と社を往復し、
数時間かけてようやく清め終わった後。
少女は疲労に震える両手を、ゆっくり掌を重ね合わせ、
ほどけるような笑顔で語った。
「忘れられるのって、悲しいよね」
「大丈夫だよ。これからは私が毎日参拝するから」
「だから。神様も寂しくないよ」
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