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出会い
―Ⅰ―
この世界にはふたつの大陸がある。
片方は緑豊かで、片方は一面の荒野だ。
ドゥルースリツキン王国は、その荒野の大半を占める王国だ。
この国が王国として成り立っているのは、王の手腕と、何より採掘される意応石(いおうせき)の存在だ。
意応石とは人の思いに応えて力を発する石のことで、これを使って人々は火を熾し水を得る。
ただし、この石を扱うには強い意志の力が必要で、それが足りないと、心が壊れてしまう。
ミカドの両親は無理をして、心が壊れて間もなく亡くなってしまった。
こちら側の大陸では珍しくない。
ミカドは両親が遺してくれた家に住み、意応石を採掘する手伝いをして、暮らしていた。
朝、起きると小指の爪ほどの小さな意応石を持って唱える。
「水よ出でよ、鍋のうち」
すると鍋に水が張られ、意応石は消える。
次にもっと小さな粒の意応石を持って、唱える。
「火よ出でよ、竈のうち」
竈のなかには枯れ草と黒石炭(こくせきたん)を入れており、枯れ草に火が点いたかと思うと黒石炭に燃え移り、鍋を温めた。
ミカドは鍋のなかに干し肉と、コトという穀物の粒と、食べられる草として貧しい者たちの口に多く入る散矢草(さんやそう)を入れて煮込んだ。
そうしていつも通り鍋の番をしていると、表で物音がした。
厄介事に巻き込まれたくはなかったが、どうも家の戸に何かが当たっているようだ。
仕方なく戸を開けようとすると、最初だけ少し引っ掛かりがあって、あとは、すっと開いた。
その開いた戸の外には、1人の男が座っていて、ミカドを見上げた。
「や、邪魔なところにいて悪いな。悪いついでに水を一杯もらえないか」
ミカドは何も言わずに意応石の粒と器を持ってくると、男の目の前で器に水を満たした。
その器を差し出すと、男は礼を言って器の水を飲み干した。
「はあ、生き返った。どうもありがとう。ところで朝飯の準備中か?もし良ければ俺にもくれないか。金は払う」
ミカドは頷いて男を家に入れた。
どことなく信用できそうに見えたからだ。
鍋に干し肉とコトと散矢草を1人分増やし、煮込む。
塩と、香辛料のバッペナとヘズを適当に入れて完成だ。
器に盛って匙と一緒に差し出すと、男は、ありがとうと言って受け取った。
「うん、うまい!腕がいいな、少年!」
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