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観念した。
のに、不破くんの手は私をすり抜け、なぜかボロボロになった教科書を掴んだ。
「ホントだ。ボロボロじゃん、この教科書。つか、これ、物理って田中の担当科目か。こんなん無くても別に困らねぇんじゃね?」
そう言って私の教科書の端をつまんでヒラヒラと揺らしながらクスクスと笑った。
てっきり殴られると覚悟していた私はその不破くんに呆気にとられる。
そんな顔の私を見て、不破くんは突然吹き出した。
「なにそのアホ面。俺なんか言った?」
「だ、って・・・なぐ、られ・・・るって・・・」
「殴る?なんで?俺に殴られるようなことしたわけ?」
私はあわてて首を振る。
なるべく人の迷惑にならないように生きてきたつもりだ。もちろん、不破くんの周りに迷惑なんてかけた記憶はない。
全力で否定すると、不破くんはつか、と続けた。
「なんでお前、謝んの?何も悪いことしてねぇのに謝る意味がわからねぇ」
「で、でも・・・っわたし、へんだから・・・っ」
「変?」
「う、まくしゃ、べれなく、て・・・だからひ、人をいつも、イライラ、さ、せて・・・」
「しゃべれてんじゃん」
「しゃ、べれて、ません!ど、ども・・・ってる・・・!」
言ってもわからない。不破くんはいつもどんな時も堂々としてて、ハキハキしてて、自由で。私みたいに人の顔色窺って、嫌われないようにしたいのに言葉が上手く形にならないから人を苛立たせることしかできない人間の気持ちなんてわかるはずない。
次の瞬間、私の隣の壁に不破くんの拳が叩きつけられる。
その衝撃に私がびくっと体を震わせて恐る恐る不破くんを見ると、不破くんは最初の不機嫌な顔に戻っていた。
今度こそ、怒らせた。今度こそ、殴られる。
「ご、ごめんな・・・さ・・・っ」
「おい」
「は、はいっ」
「どもるってなんだ」
「・・・え?」
不破くんから発された疑問に私はまたしても呆気にとられてしまった。
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