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転びそうになった手を、私は掴む。
「どうぞ、このまま置いて行って下さい」
何度目の懇願か、それでも私はそなたの手を離すつもりはない。
汗ばんでいるのか露で濡れたのか、足袋の先は不快極まりない。
ここで討ち死にするのも、潔いのかもしれぬ。
だが、ここで死すれば彼の女は敵の手に落ちる。
敵の手に落ちる位ならばと、そなたは自死を選ぶ女であるのは私が誰よりも承知だ。
「北へ、北へ逃れれば藤原様が必ずや助けて下さいます。
この深い山、お一人ならば抜けられます。
だからどうか、生き延びて下さいませ」
嗄れた愛しい君の声を、聞いていないはずはない。
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