露、涙、雨。

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「行け」 金属の音、草を踏み分ける音が聞こえる。 「…雨を、命を絶やしてはならぬ」 彼の女の腹に、新しき命が宿っているのは知っている。 幾日幾晩君を見ておれば、体の変調に気付かぬはずがないだろう。 美しき彼の女を、誰か他の者に輿入れさせるやも知れん。 私の子がいるとなれば、母体ごと斬られる可能性はある。 血を分けた兄上に情があると、悪妻とは言われるが良妻である奥方に情けがあると信じたい。 「親方様…どうか、やや子に名を与えて下さい」 どうか、という願いは私を喜ばせるものへと変わった。 生き延びると、そなたが約束をしてくれていることに心からこの人の無事を祈った。 「虹、虹じゃ。 そなたと私を、繋いでくれる」 ここには見えぬ空が、二度と見ることのない雨上がりの空が。 露に濡れ、涙に濡れるそなたの瞳を通して、私には見えた気がした。 (終)
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