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美帆は、気付いていたのだろうか。俺が美帆に対して“素”を見せていないと。だから「留学から帰るのを待っていてほしい」と、言わなかったのかもしれない。 自分自身も忘れていたものを、水野君は思い出させてくれた。自分の想いがはっきりした今、彼女にきちんと伝えたい。 「まずは、セクハラ部長からの救出か……」 アクセルを踏む足に、力が入った。 水野君たちがいる店に着く。彼女たちのいる座敷は、藤田さんがメールで知らせてくれた。 「「「いらっしゃいませ!」」」 店員の元気な声に迎えられる。 「知り合いを迎えに来たので、入らせてもらってもいいですか?」 近付いてきた女性店員に、そう告げる。 「はい!ご予約の方でしたら……」 「どこの座敷にいるか聞いているので、案内は大丈夫です。奥の座敷に行かせてもらいます」 そう言ってニッコリ笑うと、店員は少し頬を赤くした。 「どうぞ~!」 店員が手で示した方に進む。前を通る時「ありがとう」と頭を軽く下げる。 「どういたしまして!」 店員の少し上擦った声が、背中に届いた。 「ここか……」 個室が並んだ奥に、水野君たちのいる座敷があった。わかりやすい場所で助かった。 出入口の襖の前に膝をついて座る。 目を閉じて、「フゥ~」とゆっくり息を吐く。自分の中で、カチッ!と何かのスイッチが入ったように感じる。 目を開け、襖に手を掛ける。 水野君、帰ろうか。君には、伝えたい事がある。 心の中で、そう呟く。 「失礼します!」 声を張った後、スッと襖を開いた。
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