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俺の顔を見ると、頬が緩んだ。今度は、ズンズン!という勢いで、俺に近付いてくる。
「やっぱり~!塚本さんだと思ってました!」
俺を上目遣いで見上げ、唇を尖らせて言う。
だから、そういう表情は……!
俺と水野君の身長差は、三十センチ以上。上目遣いになりやすいのも、仕方ないのかもしれないが……
あと、すぐに唇を尖らせるのも困ったものだ。どうやら、彼女の癖らしいが……
彼女のふっくらとした唇がさらに強調され、どうしてもそこに目がいってしまう。
俺のよくわからない感情は、薄れるどころか、少しずつだが俺の中に溜まっているようだった。
野球チームは発足したが、梅雨時だけに、初めての野球練習は七月に入ってからだった。
毎週木曜日の午後七時、近くの公営野球場で練習する事になっている。
毎週のように練習をするようになって、水野君のいろんな姿が見られるようになった。
一緒にキャッチボールをしたり、準備運動をしたり。
ああ……あれは、やられたな。
準備運動で突然、「鬼ごっこをしよう!」と言い出した時もびっくりしたけど、遅れて行ったらいきなり、“鬼”だった水野君に捕まった。
そして「今日は“手つなぎ鬼”をしています」とか言われて。
いやあ、あれは焦った。平気なフリをしていたけど、かなり緊張した。
緊張をごまかしながら出した俺の手を見て「無駄に大きい」なんて言うから、水野君の手と比べてみた。
あの時ははっきり言えなかったが、水野君の手は小さいだけでなく、なかなか不細工だった。
その事を気にしているように見えたので、軽くからかう程度にとどめておいた。
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