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また……どうしてそんな顔を見せる?イヤだったら、はっきりと言えばいい。そう言わず、そんな表情(かお)を見せるのは…… 「男の前で、簡単に目を閉じるな」 水野君の耳元で囁く。大橋部長に囁かれた事を、早く忘れるように……そんな思いを込めて。 ハッ!としたように、目を開けて顔を上げる水野君。間近で見つめ合う。 さっき、どうしてあんな顔をしていた?それを読み取ろうとするように、ジッと見つめる。 その時、水野君の瞳からツーッと涙が流れた。ハッ!と目を見開く。もしかして、すごくイヤな思いをしている? 「ちっ、違うんですっ!塚本さんのせいじゃなくって、安心したら、涙が出そうになっちゃって!」 水野君が焦ったように言う。その姿が可愛くて、また水野君の気持ちを思うと、せつなくなる。 気が付けば、腕を伸ばし彼女の頭を、自分の胸に抱き寄せていた。頭を優しく撫でながら言う。 「泣きたかったら、泣いていい」 「うっ……」 水野君が俺の胸に顔を埋め、涙を流す。声は抑えているが、肩が小刻みに震える。 頭を優しく撫でながら、小さくって温かい彼女を感じでいた。 普段はクルクルとよく動く水野君を、何かの小動物のように見ている事も多いが、こうして抱き寄せると、本当に彼女は小さくて…… 愛しい……また、そんな気持ちが溢れてくる。 しばらく涙を流した後、水野君がそっと俺の胸を押した。 「ありがとうございます!もう、大丈夫です」 涙で濡れた顔で、それでも俺を安心させるように、ニコッと微笑んだ。 もう一度、抱き寄せたい……そんな思いを抑えるように短く息を吐き、俺も笑みを返した。
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