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「『彼氏のフリ』じゃなくて、本当の彼氏になってほしいって……」
「っ!……」
水野君の空気が変わる。慌てて俺は続ける。
「でも、すぐに断ったから」
「どうして?白石さんみたいに、きれいで、性格もいい人、断るなんて信じられない!」
「それは……」
会社の職員駐車場に到着したので、とりあえず自分の専用スペースに車を止める。
駐車場には、二~三台の車しか止まっていない。
「どうして?」水野君、どうして君がそれを聞くの?俺の事、「恋しちゃいました」て言ってくれたのに。白石さんとは、付き合ってないと言ったのに……
車のエンジンを切り、水野君の方をゆっくりと見る。彼女は俯いている。
俺が君に伝えたかったのは、白石さんとの事がどうって事じゃない。君が俺に言いたかった事も、こんな事じゃないはずだ。
──あの日、たぶん君が、ものすごく勇気を出して聞いてくれたのに、自分の準備ができていなくて、ちゃんと答えられなかった。
嘘もつけず本当の事も言えず、かえって君を混乱させただけだった。
……でも、今は……ちゃんと自分の気持ちを伝えるから、もう一度だけ、訊いてほしい。
「水野君が一番俺に訊きたい事は、そんな事?ちゃんと答えるから。今度は、ごまかさずに答えるから。もう一度訊いてほしい」
水野君が顔を上げ、潤んだ瞳で俺を見つめる。
「塚本さん!」
「はい」
「この前の飲み会の時、私に……キス、しましたか?」
「はい、しました」
水野君を見つめたまま頷いた。
「それは……それは、どうしてですか?」
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