4/12
前へ
/140ページ
次へ
『脇腹モミモミ』とか言って、みんなの脇腹をこっそりくすぐり始めた時も、みんな笑って水野君のやる事を許した。 お互いの反応が笑えたし、一番は水野君がかなり近付いて自分に触れてくるという事を、みんな秘かに喜んでいた。 最初においしい……じゃなくって、犠牲になったのは俺だった。 ただ、俺は彼女の思うような反応をする事ができなかった。俺は『くすぐったくない男』だったようだ。 「チッ!つまらない男ですね」 と、最後には舌打ちをされてしまった。 彼女はいつも、“素”を見せてくれている。飾らず気取らず、自分の正直な姿を見せてくれていると感じる。 だから俺も、変に考え過ぎず、そのままの自分が出せるのかもしれない。 彼女の隣は、とても楽だ。 ***** ──九月の半ばを過ぎた頃、高野主任から意外な話を聞いた。 「“異動”ですか?」 「ああ。村瀬君で決まりだと思う」 ある営業所で営業アシスタントが一人、休職している。そこに、村瀬君を異動させるという事らしい。 「今度の定期異動まで、とりあえず総務課から応援に行く予定だったんじゃないんですか?」 「まだ、半年もある。つなぎにしては、長過ぎる。それに素人が行っても、双方が苦労するだけだ。だったら、その後も見越した異動をした方がいい──というのが、川下部長の考えだ」 「……」 川下部長らしいと思う。 「村瀬君じゃ、心配か?」 「いえ、村瀬君なら充分にできます。もう一段階成長する為にも、いい経験になると思います。自宅も、営業所の方が近い」
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

489人が本棚に入れています
本棚に追加