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『脇腹モミモミ』とか言って、みんなの脇腹をこっそりくすぐり始めた時も、みんな笑って水野君のやる事を許した。
お互いの反応が笑えたし、一番は水野君がかなり近付いて自分に触れてくるという事を、みんな秘かに喜んでいた。
最初においしい……じゃなくって、犠牲になったのは俺だった。
ただ、俺は彼女の思うような反応をする事ができなかった。俺は『くすぐったくない男』だったようだ。
「チッ!つまらない男ですね」
と、最後には舌打ちをされてしまった。
彼女はいつも、“素”を見せてくれている。飾らず気取らず、自分の正直な姿を見せてくれていると感じる。
だから俺も、変に考え過ぎず、そのままの自分が出せるのかもしれない。
彼女の隣は、とても楽だ。
*****
──九月の半ばを過ぎた頃、高野主任から意外な話を聞いた。
「“異動”ですか?」
「ああ。村瀬君で決まりだと思う」
ある営業所で営業アシスタントが一人、休職している。そこに、村瀬君を異動させるという事らしい。
「今度の定期異動まで、とりあえず総務課から応援に行く予定だったんじゃないんですか?」
「まだ、半年もある。つなぎにしては、長過ぎる。それに素人が行っても、双方が苦労するだけだ。だったら、その後も見越した異動をした方がいい──というのが、川下部長の考えだ」
「……」
川下部長らしいと思う。
「村瀬君じゃ、心配か?」
「いえ、村瀬君なら充分にできます。もう一段階成長する為にも、いい経験になると思います。自宅も、営業所の方が近い」
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