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高野主任は、ニヤッと笑った。
「村瀬君は、違う心配をしてほしいだろうな。お前も、どう答えるかちゃんと考えておくんだな」
そう言って高野主任は、俺の肩を叩いた。
村瀬君と元カノは、同期だった。
入社して新人研修が終わり、村瀬君はうちの営業アシスタントに配属された。
配属された当初から、鈍い俺にもわかりやすい形で村瀬君は好意を伝えてくれた。
村瀬君はいつもきれいだし、仕事の覚えも早かった。
入社二年目でまだまだ頼りなかった俺を、すぐにしっかりサポートしてくれるようになった。
仕事のパートナーとしては、信頼も尊敬もできる。でも、それ以上の感情はどうしても湧いてこない。
村瀬君からの誘いを俺は、何となくごまかしながら断っていた。
同じ職場で毎日のように顔を合わせるのだから、村瀬君もそれ以上は踏み込んでこなかった。
それをいいことに……
村瀬君たちが入社した年の秋の終わりには、元カノと付き合い始めていた。
十月の俺の誕生日に、元カノ=美帆からプレゼントをもらった。
それをきっかけに、少しずつ二人で出掛ける事が増えていった。美帆の好意を知って、俺はそれを受け入れた。美帆は、何となく気になる子だったから。
そんな頃、美帆が俺に言った。
「陽平に、誕生日プレゼントを渡す前、ルミに言ったの。『私も塚本さんの事が好き』て」
その時初めて、美帆と村瀬君がそこまで仲がいい同期だったと知った。
俺なんかより、美帆の方がずっと大人だった。
そしてある日、村瀬君が、ポツリと呟いた。
「美帆でよかった……」
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