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村瀬君の気持ちを知りながら、何もしなかった俺。情けないと思った。 今度はごまかさず、村瀬君にきちんと俺の気持ちを伝えよう。そう心に決めた。 村瀬君が異動する事に気をとられ、うちの営業アシスタントに、誰かが異動してくるであろう事なんて全く頭になかった。 その事実は、またもや高野主任から告げられる。 「えっ!?」 口を開けたまま、もう一度高野主任に訊いてしまう。 「なんだ、聞こえなかったか?沙映ちゃんだ。み・ず・の・さ・え!」 クククッと笑いながら、高野主任は繰り返した。 「でも、水野君は臨時採用だったはずじゃ……」 「三ヶ月たったから、本採用になったそうだ。川下部長が動くんだから、どうにでもするさ」 肩を竦めて、高野主任が言った。 「水野君は、承諾したんですよね?」 「彼女の立場で、断る事はないさ」 「……」 水野君と初めて会った時に、彼女が見せた不安そうな顔が浮かんだ。 「ただ……いろいろ不安はあるだろうな。経理の時は、簿記の資格がいかせると思えたようだが、うちは彼女にとって未知の世界だろう」 そう言った後、高野主任は主任らしい人懐っこい笑みを浮かべた。 「しっかりフォローしてやろう。俺たちの可愛い沙映ちゃんだからな」 「はい!」 高野主任の言葉に、俺は、ようやく笑顔で頷く事ができた。 来週の金曜日、村瀬君が営業一課で仕事をする最後の日だ。夜には水野君も呼んで、営業一課の勧送迎会もある。 俺がきちんとけじめをつける日も、もうすぐだ。
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