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***** ──九月の終わりの金曜日、午後七時。大将のいつもの居酒屋で、勧送迎会は始まった。 営業部長、課長、一課の営業担当五人に、アシスタント二人、水野君 の総勢10名での勧送迎会だ。 会が始まる前、高野主任に「村瀬君を自宅まで送ります」と伝えた。 高野主任は、薄く笑って頷いた。 昼間の、村瀬君の引き継ぎの様子を丸岡さんに聞いて心配していた。 が、さすがに部長・課長の前では抑えていたようだ。表情は固いが、きちんと受け答えをしていた。 水野君は……笑ってはいるが、いつもの笑顔じゃない。 今日はせっかく生ビールを飲んでいるのに、いつもの明るさもない。 俺よりも、酒が強いと言った水野君。その飲みっぷりを、傍で見たかったけど。 今日は、村瀬君に付き合おうと決めていたから。 「私も付き合うよ」と丸岡さんが言ってくれた。丸岡さんの気遣いには、いつも助けられている。 一時間程して、部長・課長が次の予定があると退席すると、村瀬君が本音を見せ始めた。 「私、本社でのアシスタントの仕事に、やりがいを感じていました!」「どうして、私なんでしょうか?」 潤む瞳で、唇を震わせながら訴える村瀬君。時には俺の腕にすがるように、時には膝に手を置かれ、じっと見つめられたり…… 俺と村瀬君の距離が、いつもよりずっと近い。 村瀬君の瞳を見返しながら、それでも、彼女には何も感じない事が再確認できてしまった。 横目で、時々水野君の様子を見る。やっぱり、いつもより元気がない気がする。 村瀬君の今日の姿を見たら、居心地悪く感じるのも当然だろうが。 勧送迎会開始から二時間程経ち、ここを出る事になった。
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