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「送って行くよ」
少し足元がふらついている村瀬君に声をかけたら、目を見開た後、小さく頷いた。
お店から出る前、水野君と顔を合わせた。こんな風に顔を合わせたのは、今日は初めてだったと思う。
水野君に元気がないのはわかっていたが、いつも通り声をかけた。
やっぱり、不機嫌な返しをされた。俺には言ってもいいのに。「居心地が悪い」て。
なのに最後には「上機嫌です!」と言い切った。
水野君らしくて、一人で笑った。これから、村瀬君と向き合うつもりだ。短い会話だったのに、水野君から“元気”をもらった気がした。
俺の車の助手席に村瀬君を乗せ、一課のみんなに見送られながら出発した。
村瀬君は、泣きながら手を振った。
水野君の姿を探したけど、見つけられなかった。小柄な彼女だから、誰かの影になってしまったのだろう。
しばらく静かに涙を流していた村瀬君だったが、鼻を啜りながらハンカチで目元を拭く。
「塚本さん、送ってくださってありがとうございます」
と、小さく頭を下げた。
「いや、気にしないで」
「塚本さんが送ってくださるって事は、私、期待してもいいんでしょうか?」
チラッと村瀬君を見ると、バッチリ目が合ってしまった。
ハンドルを握る手に、少し力が入った。
「村瀬君、今まで中途半端な態度で、ごめん。俺は、君の事は職場の同僚としてしか見れない」
村瀬君の肩が、ピクッ!と動いたのがわかった。
「どうして?私と美帆の、何が違うんですか!?」
「村瀬君と美帆は、違う人間なんだから、違って当然だ。それは、どちらが良いとか悪いとか、上とか下とかって事じゃないんだ」
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