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「車を停めて話したい。この近くに駐車場はない?」 気持ちを抑えるように、声を抑えて話す。 「次の交差点を左に曲がって少し走ると、公園の駐車場があります」 「わかった」 村瀬君の案内で、公園の駐車場に着く。わりと広い駐車場には、他にも四~五台の車が停まっていた。 一度だけ大きく深呼吸して、村瀬君に身体を向ける。 村瀬君も俺の事を、見つめていた。 今まで村瀬君は、俺にストレートに想いを伝えてくれていた。 だから俺も、言葉を選びながらも、断りやすかったんだと思う。 今の村瀬君の眼差しは、これまでで一番穏やかだと思った。 “きれい事”ではダメだ。俺の本当の気持ちでないと、伝わらない──そう感じた。 「これから、村瀬君にとって酷い事を言うと思うけど……」 村瀬君は、しっかりと頷いた。 「俺は“男”だから、村瀬君が『一度だけでいいから』て言うのなら、たぶん、できると思う」 「『たぶん』ですか……」 「でも、そういう事をしたら、間違いなく気まずくなる。例え、それが村瀬君が望んだ事だったとしても、今までのようにはできない」 村瀬君の瞳を見つめる。最後まで、逃げるな! 「今回の異動で、一緒に仕事をする事は当分ないだろうけど、また機会はあると思う。でも、きっと俺は村瀬君を避けてしまうようになる。例え君の望みでも、俺は“信頼し、尊敬もできる仕事のパートナー”をなくしたくない!」 ハッ!と村瀬君が、息を呑むのがわかった。 「塚本さん、ズルい!そんな事言うなんて……」 村瀬君の瞳から、涙が零れた。両手で顔を覆って、肩を震わせながら泣いている。
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