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俺はグッ!と両手で拳を握った。今は、慰めない。でもこれから、村瀬君が仕事で落ち込むような事があったら、全力で応援するから! しばらく涙を流した後、村瀬君は手の甲で涙を拭いた。 「私が、どうして塚本さんを好きになったか、わかりますか?」 「いや……」 「私が、一課に配属されて、夏ぐらいでした。取引先と飲み会があって……」 「うん」 「そこの課長、前々から女をバカにした感じで、イヤなヤツでした。やっぱり飲み会でも『男探す為に入社したんだろ!』とか『君は夜の仕事の方が向いてるんじゃないか』とか、本当に最低でした!」 村瀬君の強い口調に、怒りが伝わってくる。なんとなく思い出した。あの時は、俺も腹が立った。 「塚本さんがその課長の隣に行った時も、私の事『笑ってお酌するぐらいしか、脳がないでしょう』なんて言うから、私、悔しくて泣きそうでした」 そう言った後、村瀬君は薄く笑った。 「でも塚本さんが『村瀬はきれいだから、確かにお酌をしてもらうと嬉しい。でも、それ以上にきっちりと仕事をこなす優秀なアシスタントです!』そう言って笑ってくれたんです」 そんな事、言ったかな?自分では、よく覚えていない。 「あの時から私、塚本さんに本気になりました。みんなが『クールの藤田か、ソフトの塚本か?』て騒ぐから、とりあえずノリで『じゃあ、塚本さん』て感じだったんですけど……」 俺は、思わず苦笑した。なんだ、ノリだったのか。最初の頃、結構気を遣ってたんだけど。 「こう見えて私、仕事好きなんです。その分、努力もしていたつもりです。それが認めてもらえて、嬉しいです」
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