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俺は、苦笑しながら言った。
「もう!宮前君が行けばいいじゃない!どうせ、たいした話じゃないんだから」
隣の席の宮前の背中を叩いて、村瀬君が言った。
「いっ!なっ、何で自分なんですか?」
宮前が、控えめに抗議する。
「宮前君なら、危険がないからよ!」
「っ!」
宮前は、とりあえず言いたい事を飲み込んだようだ。他のみんなは、宮前にいつもの如く同情の視線を向けた。
営業一課の紹介が終わったところで……
俺は、塚本 陽平、今年二十六才になる。
県外の大学を卒業して地元に戻り、この会社に就職した。地元の優良企業であるここに就職できたのは、俺としては結構がんばったと思う。
さっきから、みんなの話題の元となっている『園田課長』。俺が担当する得意先の課長で、この田舎ではまだ珍しい、絵に描いたような“キャリアウーマン”だ。
いつも、身体のラインを強調したようなスーツを着こなし、甘い香りをさせている。といっても、『女』である事だけを武器にしている訳ではなく、ちゃんと仕事もできる人だ。ただし月に一度を除いては……
ここは、二年先輩の藤田さんが担当していた。四月に藤田さんが営業所に異動になった為、俺が引き継いだ。
引き継ぎの時、藤田さんが一番最初に言ったのが
「園田課長の前では、隙を見せるな。じゃないと、喰われるぞ」
やけに真剣な顔で言うから「肉食恐竜じゃあるまいし」なんて思っていた。
初めて一人で園田課長と対面した時、ちょっと忘れ物をしたからと園田課長が席を立った。
椅子に腰掛けた俺の横に立つと、不意に屈んで、俺の頬に触れるだけのキスをした。
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