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「藤田君の後だから、期待していなかったんだけど。塚本君なら、合格」 そう耳元で囁いた後、何事もなかったように離れていった。 俺はしばらく固まったまま、動けなかった。座っていたけど、腰でも抜けたかと思った。ようやく我にかえると、ハンカチを出して慌てて頬を拭いた。 隙を見せたつもりはない。ただ、警戒もしていなかった…… ティラノサウルスの方がまだましだ。基本的に恐竜は好きだし。あ~!見ていたつもりだったのに、藤田さんの苦労を全然わかっていなかった! 園田課長の甘い香りに痺れた頭を振りながら、これからはあの人の前では、常に鎧を着ていようと誓った。 俺が担当するようになった四月以降、月に一度くらいの割合で、園田課長からこういう呼び出しを受ける。 金曜日か、休日の前日の、本来の就業時間を過ぎた頃、「どうしても確認したい事がある」と、呼び出される。 行ってみれば、たいした用件ではなく、のらりくらりと時間を引き延ばされ、最後には「手間をかけたから、お礼に食事でも」と誘われる。 呼び出される用件は多少違うが、流れは決まっている。それを、予定があるからと断る。 嘘をつくのが苦手だから、園田課長に呼び出されたら、次の予定を決めてから行く。 毎回同じ流れだから、園田課長もいい加減諦めてくれたらいいのに…… 藤田さんが異動前は二ヶ月に一回ぐらいだったから、まずはそれが目標か。 そんな不毛な事を思いながら、俺は出かける準備をした。 ──つ、疲れた…… 何とも言えない疲労を心身ともに感じながら、会社でよく利用している居酒屋に辿り着く。
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