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「「「いらっしゃいませ!」」」
「こんばんは!」
お店の人の明るい声に、少しだけ気分が浮上する。
「塚本さん、いらっしゃい!いつもの中の座敷だよ」
大将が、目尻にシワを寄せて笑う。
「お世話になります」と軽く頭を下げながら、奥に向かう。
うちの会社でよく使う、細長い造りの座敷。お店のつきあたりまで行くと、広い座敷があり、その手前にあるから『中の座敷』なんて言っている。
「一時間ほどの遅刻か……」腕時計を見て、そう呟いた。
一ヶ月くらい前に、社内に新たに野球チームができた。
監督は、野球好きで有名な川下総務部長。キャプテンは高野主任。副キャプテンは営業二課の津村主任。
今日はその野球チームの、“発足式”と名付けた飲み会をしている。
『野球チームができるらしい』という話が社内に出た時、なぜか俺の周りが少しざわついた。
「塚本さんは、野球チームに参加しますか?」そんな事を、直接的にも間接的にも聞かれた。
高野主任たちから誘いは受けていたが、特に経験者でもない俺は、どうするか決めかねていた。だから「どうかな?」なんて、曖昧に答えていた。
「塚本さんが野球チームに参加するなら、私、マネージャーをします!」
ある日、村瀬君からそう言われ、そういう事だったのかと、やっとわかった。
野球チームのメンバーは三十代~四十代の野球好きだったり、身体を動かす事が好きな先輩たちが中心だった。
俺が参加する事で、その雰囲気を壊したくない。
そう思った俺は、野球チームに参加しない事を、高野主任に告げた。はずだったのに……
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