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「塚本、野球チームの“発足式”やるから、空けとくように」 と高野主任に、先週言われた。 「えっ!?それは参加しないと……」 「野球チームのメンバーの名簿、お前の名前も入れて会社に提出してあるから。会費も、来月からもらうからな」 「……」 「マネージャーは、川下部長が決めているそうだ」 「……え?」 高野主任たちには、俺の気にしている事なんてお見通しか…… 「一人は小竹君」 経理課の小竹(こたけ)君は、俺と同期だ。短大卒で入社してるから、二才下になる。極秘になっているが、川下部長の姪でもある。 藤田さんの高校の後輩でもあるから、藤田さんも可愛がっている。明るくてよく気が付くし、適任だろう。 俺が納得したように頷いていると、高野主任が続ける。 「もう一人は、今度経理課で臨時採用する子だそうだ」 そろそろ池田君が、産休に入る頃か。でも、まだ姿を見かけてないよな? 「“発足式”には顔を出せるように、その日が初出勤にしてあるそうだ」 「えっ!?それって、まだその子は何も聞いていないって事ですよね?」 「川下部長が決めたんだから、そういう事になるんだろ」 高野主任は、ニヤリと笑った。 俺は、まだ出会った事のないその子に同情した。 「遅くなりました!」 襖を開いて、声をかける。みんなの視線が、俺に集まる。
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