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「お客様! ちょっと待ってください!」
中に入ると、リクルートスーツはチケットを差し出してきた。
「ただいま開店記念に、隣のコンビニで使えるクーポンをお配りしてます。どうぞ」
クーポンには「ビッグストップ全店 デミグラスハンバーグまん引換券」と書いてあった。デミグラスハンバーグまんは、中華まんのくせに300円以上もする。それがタダ!?
「ありがとうございます! さっそく使います!」
「待って待って! あともう一つ!」
リクルートスーツが、真顔で呼び止めてくる。異様な雰囲気を感じて、私は振り返った。
「お客様は年末年始、日比谷マコト様のお宅で過ごされますね」
うわっ、そんなことまでわかるんだ。っていうか、そこまで調べなくても。
「そうだけど?」
「あまりお勧めはしません」
リクルートスーツは小声で告げた。この人は未来を知っている。だから何だっていうの? 私はいつか子供ができる。マコトとの子だ。子供なんかできないって思ってたけど、未来の技術でできるようになる。きっと、マコトとも結婚する。
そんな人生の伴侶を、ほったらかすなんてできない。雨が降ろうが槍が降ろうが、マコトのとこに行ってやる!
子供とは会えなくなるけど、しょうがない。このサービスを選んだのは、今年をやり過ごすためだ。何もせずマコトに逃げたら、来年か再来年に孫孫言われる。先延ばしにしても、いつかやられる時が来る。いいかげん、2018年でケリをつけよう。
何より、子供を見る楽しみは未来にとっときたい。その方がワクワクする。
「よくないことが起こるんでしょ?」
明るく言うと、リクルートスーツは目をぱちくりさせた。
「でも、私は行きたい。いろいろ言いたいことがあるんだと思うけど、ネタバレはお断りします」
未来のことばっか考えて、意思を変えるのはばからしい。たとえ悪いことが起きるとしても、自分の人生は自分で決める。マコトからのメールが来たとき、嫌な予感はしなかった。なら、それでいい。私は私を信じてる。
「それじゃ、よろしくお願いしますね」
「かしこまりました。何卒、お気をつけて」
リクルートスーツの声は、相変わらず震えていた。でも、死ぬわけじゃないしねえ。少なくとも、子供ができるまでは生きるんだし。
私はコンビニへ行って、デミグラスハンバーグまんを受け取った 。うん、おいしい。きっと大丈夫。
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