21人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
「正一くん! ラキちゃんをあやしなさい! 父親でしょ!」
由美子は待ってましたとばかり、ラキちゃんを正一くんに押し付けた。
「え、さっき任せてって」
「紗矢に言ったの! あんたは頑張らなさすぎ!」
「そうだ! 正月ぐらい育児しろ!」
「違うでしょ亮太あ!」
どうした由美子。なんで俺を怒る。
「育児は正月過ぎてもやりなさーい!」
ごもっとも。
「は、はい。すみません! うわあ、どうしよう。とりあえず散歩してきます」
「いってらっしゃい」
正一くんはパジャマ姿だが、この際かまわん。出てってくれた方が、紗矢もこっちも気が治まる。由美子はため息をついた。
「はー。情けないやつ」
「正一くん、こんなやつだったとはなあ」
俺もため息が出る。
正一くんの第一印象は、驚くほど堅そうだった。誰もが知る国立大学を卒業し、大企業に就職。同期で一番のエーギョーセーセキを取り、2年目には昇進していた。
かたや紗矢の方は、英語の授業でABCを教える大学にかろうじて合格。入学後は遊びとバイトにいそしみ、危うく留年しかけた。それでも本人なりに頑張り、現役で卒業して就職した。正一くんの会社の、下請け企業だった。
紗矢はいい子だが、正一くんは釣り合わないんじゃないか? 優秀すぎる経歴に、俺も由美子も気後れした。今は別の意味で、全く釣り合わないと思う。
正一くんよりも、最初に連れてきた清瀬くんがよかったなあ。校則違反の水色頭をしていたが、紗矢には優しかった。
「はーあ」
また由美子がため息をつく。
「気持ちはわかるが、このへんにしよう。せっかくの正月にため息なんて」
「だって、綾が心配で」
最初のコメントを投稿しよう!