お孫さん、お連れします

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「正一くん! ラキちゃんをあやしなさい! 父親でしょ!」  由美子は待ってましたとばかり、ラキちゃんを正一くんに押し付けた。 「え、さっき任せてって」 「紗矢に言ったの! あんたは頑張らなさすぎ!」 「そうだ! 正月ぐらい育児しろ!」 「違うでしょ亮太あ!」    どうした由美子。なんで俺を怒る。 「育児は正月過ぎてもやりなさーい!」  ごもっとも。 「は、はい。すみません! うわあ、どうしよう。とりあえず散歩してきます」 「いってらっしゃい」  正一くんはパジャマ姿だが、この際かまわん。出てってくれた方が、紗矢もこっちも気が治まる。由美子はため息をついた。 「はー。情けないやつ」 「正一くん、こんなやつだったとはなあ」  俺もため息が出る。  正一くんの第一印象は、驚くほど堅そうだった。誰もが知る国立大学を卒業し、大企業に就職。同期で一番のエーギョーセーセキを取り、2年目には昇進していた。  かたや紗矢の方は、英語の授業でABCを教える大学にかろうじて合格。入学後は遊びとバイトにいそしみ、危うく留年しかけた。それでも本人なりに頑張り、現役で卒業して就職した。正一くんの会社の、下請け企業だった。    紗矢はいい子だが、正一くんは釣り合わないんじゃないか? 優秀すぎる経歴に、俺も由美子も気後れした。今は別の意味で、全く釣り合わないと思う。  正一くんよりも、最初に連れてきた清瀬くんがよかったなあ。校則違反の水色頭をしていたが、紗矢には優しかった。 「はーあ」  また由美子がため息をつく。 「気持ちはわかるが、このへんにしよう。せっかくの正月にため息なんて」 「だって、綾が心配で」
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