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お孫さん、お連れします
気づけば新年がやって来た。早いもんだな。俺は雑煮のもち菜を切り、由美子はおせちを盛り付けている。
「由美子。今年はもちのシートを導入しよう。これだと誤飲しにくいらしい。お義兄さんでも安心だ」
「おーっ。亮太はハイテクねえ」
妻・由美子は、箸でおせちを盛り付けている。かまぼこの行列を作ってるとこだが、どうにも路線がずれていた。まあ、5ミリまではご愛敬だな。由美子はもともと、手先が不器用だ。
「お正月は楽しいけど、親戚がどやどや来るのがめんどくさいね。料理も用意しなくちゃいけないし。来年からは、人数分のドーナッツで済まさない?」
「さすがに手抜きすぎるだろ。でも、お義母さんももういないしな。多少は楽をしてもいいか」
と雑談をしてたら、娘・紗矢がすごい形相で駆け込んできた。
「こんのバカヤロー!」
紗矢は背中に孫を背負い、右手で男を引きずっている。パジャマ姿の男は胸倉をつかまれ、情けなくひいひい言っていた。
「誰だこいつは! 新年早々不審者か!」
「正一ですう」
「不審者でええわっ!」
正一くん? ああ、紗矢の夫か。
「うわっ」
紗矢が手を離したとたん、正一くんはよろめいた。
「何があったの?」
「お母さん!」
紗矢はまくし立てた。
「もーやってらんない! あたしが3時間おきにおっぱいやって、夜泣きもあやしてる間、こいつずーっと寝てたんだよ!」
なんてこった。娘がピンチの間、俺は爆睡していた。いくら部屋が離れてるからって、少しも気づけなかったとは。申し訳ない。
「しかも起きたら起きたでさ『まだ化粧もしてないの? ちゃんと身支度して、早くお母さん手伝えよ』って! 自分の方が、起きるの遅かったくせに! もう嫌! 主婦も育児もやめてやるー!」
紗矢が足を振り上げる。
「やめなさい!」
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