明の場合

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「コレ結構いける。バンズも俺の好きな甘いヤツだし、ソースもうまっ」 「そか」  手の中にある新作バーガーに齧り付き「ウンウン」と頷く俺に、一平は目も上げずノートに書いた数学の公式をカリカリとひたすら解きながら気のない返事をした。  文化祭も終わり、昼間の日差しもすっかり心地よく涼しくなってきた今日この頃。  中間試験の二週間前に入った俺たちは、学校帰りにバーガー屋のボックス席で頭を突き合わせ問題集を解いている。正確に言えば、問題を解いているのは一平だけで、俺はノートをひろげながら、バーガーを食べている。  チーズバーガー単品を三つ買いの一平。一つ目はすでに全部口の中。クシャクシャに丸めた包み紙をトレーへ置き、その流れで二個目のチーズバーガーを手に取ると、ノートから目を離さず器用に齧り付く。俺のはセットメニュー。もう晩御飯はココで済ませるつもり。  ここで勉強をするようになったのは、去年の……一学期頃だったっけ? 夏休み前の期末試験の時。なんでバーガー屋でかっていうと、一平は大家族の長男で、下に四人も弟妹がいる。内三人は未就学児とそれはそれは賑やかで、家に帰っても勉強どころじゃないんだ。  普段、水泳部に所属している一平は、一時間ほど学校のプールで泳ぐと真っ直ぐに家へ帰る。小学六年生の妹と一緒に、保育園児の弟と、もうすぐ三歳になる双子の弟たちの面倒を見るためだ。  お父さんは普通のサラリーマンで、仕事の関係上、帰宅時間がどうしても八時とか九時頃になってしまうらしい。お母さんはフリーライターとか言ってたかな。昼間はどうしても双子にかかりきりになってしまうから、一平たちが学校から戻ってから仕事するみたい。  家族愛だけで成り立っているわけではなく、お母さんから妹は五百円、一平は千円もらっていると言っていた。時間と労働がちゃんと給料として見合っている。そして中間試験と期末試験前の二週間だけはその労働を免除されるらしい。  俺は一人っ子だから、テスト勉強は家でできなくもない。だけど優しいから親友に付き合ってあげているんだ。別に頼まれたわけじゃないけど。
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