明の場合

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「耳裏とか自分じゃあんまりしっかり洗わないだろ?」  そう言いながら、耳の後ろからうなじにかけて絶妙な力加減で擦ってくる。気持ちいい。地肌が喜んでる。きっと弟たちのシャンプーとかも一平がしているんだろうな。慣れた手つきだもん。いいなぁ。毎日洗ってもらえるんだもんなぁ。 「すっげぇ、気持ちいい。上手いね、一平」 「だろ」  上を向いていたけど、両方の眉まで泡が垂れてきた。 「目閉じとけよ」 「閉じていいの?」 「泡入るぞ」  すぐの距離にある一平の顔。近すぎて目を見れないから目の前の口元をひたすら見ていた。ああ、スマホ。このショットアップしたら『いいね』がすごい事になりそうだ。  そんなことを考えながら視界に蓋をする。当たり前だけど、途端に真っ暗になる。しかし、意識して目を閉じるってなんか難しい。必要以上にグッと瞼に力を入れておかないと、勝手に開いちゃいそうだ。  ぷにゅっと唇に柔らかいものが一瞬触れた。  あや!? なに? 今の感触。  直ぐに消えてしまった感触は、初ものだったけど。チュッて鳴った。つまりチュウだよな? それ以外に思いあてはまるものないもの。でも、なんで?  俺は目をギュッとつぶったまま尋ねた。 「ねぇ、……今のって?」 「ん?」  しらばっくれている感アリアリの声。  聞いても答えないかな? でも、確かに感触あったよね?    感触を確かめようと閉じている唇をムグムグと結んでみる。全然違う感触。もっと優しくって気持ちを持ってかれそうな感触だった。  眉の泡がさらにジリジリと下へ垂れてくる。  ああ、垂れる。垂れてくる。拭いたい。
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