第二章・言葉にできない

39/39
3296人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
「私がなにを言いたいかって? 言いたいことはあるけれど、それは あなた方に対してではないのよ。 私はただ、確証を得たかっただけなの」 「ですが、差し支えなければお聞かせ 願いたいですね。これだけ敵意を 向けられた上に、好奇心をくすぐったん ですから」 宗佑さんが答える。 「……そうね。もう子供じゃないんだし、 あなたもそろそろ知ってもいい頃よね。 いいでしょう。あのね、私は──」 笠原さんの話が肝心なところに差し 掛かった時、わっという歓声と共に 大きな拍手が鳴り響き、彼女の言葉が かき消された。 何ごとかと辺りを見ると、壇上に 優作さんの姿が現れたところだった。 彼の整った容姿は壇上の上で映える上に、 その体格の良さも相まって、女性の熱い 視線が注がれている。 私達といるときは、気さくなお兄さんという 感じの優作さんだけれど、やはり企業の トップだけあって、公の場では堂々と していて物腰に余裕が感じられた。 「ここではまともに話ができないわね。 今夜は失礼することにするわ。愛歩さん またね」 「え、あ……」 宗佑さんが優作さんの登場に気を取られて いる間に、笠原さんがため息をついて 私の肩を叩いた。 引き止める間もないまま、彼女が通りすがりに さっと身を寄せて、耳元に囁く。 「え……?」 彼女の言葉は、優作さんの軽口で起きた 笑い声のせいで聞き取りにくかったが、 『大きくなったわね』 そう聞こえたような気がした。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!