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「私がなにを言いたいかって?
言いたいことはあるけれど、それは
あなた方に対してではないのよ。
私はただ、確証を得たかっただけなの」
「ですが、差し支えなければお聞かせ
願いたいですね。これだけ敵意を
向けられた上に、好奇心をくすぐったん
ですから」
宗佑さんが答える。
「……そうね。もう子供じゃないんだし、
あなたもそろそろ知ってもいい頃よね。
いいでしょう。あのね、私は──」
笠原さんの話が肝心なところに差し
掛かった時、わっという歓声と共に
大きな拍手が鳴り響き、彼女の言葉が
かき消された。
何ごとかと辺りを見ると、壇上に
優作さんの姿が現れたところだった。
彼の整った容姿は壇上の上で映える上に、
その体格の良さも相まって、女性の熱い
視線が注がれている。
私達といるときは、気さくなお兄さんという
感じの優作さんだけれど、やはり企業の
トップだけあって、公の場では堂々と
していて物腰に余裕が感じられた。
「ここではまともに話ができないわね。
今夜は失礼することにするわ。愛歩さん
またね」
「え、あ……」
宗佑さんが優作さんの登場に気を取られて
いる間に、笠原さんがため息をついて
私の肩を叩いた。
引き止める間もないまま、彼女が通りすがりに
さっと身を寄せて、耳元に囁く。
「え……?」
彼女の言葉は、優作さんの軽口で起きた
笑い声のせいで聞き取りにくかったが、
『大きくなったわね』
そう聞こえたような気がした。
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