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愛歩は兄貴の交際相手。
それも結婚を前提とした正式なものだ。
愛歩は俺と過ごした一夜をあっさりと
過去にして、より有利な将来へと
突き進んでいる。
けれども考えてしまう。あの朝俺が、
愛歩より先に目覚めていたらと。
目覚めたとき言うつもりだった言葉を、
伝えることができていたら、この状況は
変わっていたのだろうかと。
それこそばかな考えだと思う。
あの朝俺が提案しようとしたのは、一時の
恋愛関係であって恒久的なものではない。
愛歩が結婚を望んでいるならば、俺が
なにを提案しようが受け入れられる
ことはなかったのだから。
「……さん、宗佑さんったら!痛いわ。
放してくれない?」
背後から愛歩の声が聞こえ、はっとして
振り向く。
見ると、彼女は繋いだ手を引き抜こうと
躍起になっていた。
兄への苛立ちに始まり、いろいろなことを
考えていたせいで、力が入りすぎていたようだ。
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