第三章・あなたを知りたい

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愛歩は兄貴の交際相手。 それも結婚を前提とした正式なものだ。 愛歩は俺と過ごした一夜をあっさりと 過去にして、より有利な将来へと 突き進んでいる。 けれども考えてしまう。あの朝俺が、 愛歩より先に目覚めていたらと。 目覚めたとき言うつもりだった言葉を、 伝えることができていたら、この状況は 変わっていたのだろうかと。 それこそばかな考えだと思う。 あの朝俺が提案しようとしたのは、一時の 恋愛関係であって恒久的なものではない。 愛歩が結婚を望んでいるならば、俺が なにを提案しようが受け入れられる ことはなかったのだから。 「……さん、宗佑さんったら!痛いわ。 放してくれない?」 背後から愛歩の声が聞こえ、はっとして 振り向く。 見ると、彼女は繋いだ手を引き抜こうと 躍起になっていた。 兄への苛立ちに始まり、いろいろなことを 考えていたせいで、力が入りすぎていたようだ。
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