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握っていた手を放すと、愛歩は手を振って
痛みを散らしはじめた。
「そこまでするほどか?」
「あのね、あなたは自分の手がどれほど
大きくて、力も強いか全然わかってない
みたいね。見て、赤くなってるじゃない」
「特に異常は無いように思えるけど?」
差し出された手を見ると、微かに赤くなって
いるようにも見える。が、これといって
異常は無さそうだった。
思った通りを口にすると、愛歩は話に
ならないと言わんばかりに、小さな
ため息を吐いて扉の脇にある、クロークに
行ってしまった。
手持ち無沙汰になった俺は、待っている
間に兄貴の携帯に電話を掛けた。が、
予想通りに応答はなく、仕方なく
留守番電話と、念のためにメール
でもメッセージを送り、兄貴が早く
気づくことを願うしかなかった。
ほどなく荷物を抱えた愛歩が戻り、俺達は
会場のホテルを後にした。
***
土曜の夜だというのに、道路は意外にも
空いていて、この分だと予想よりも早く
目的地に着きそうだ。
ハンドルを切りながら、あれこれとルートの
算段をする俺の隣で、愛歩はまだ大きな目を
見開いて俺を見ている。
「……いい加減にそんな目で見るのは
止めてくれ。それほどおかしなことじゃ
ないだろう?」
「だって……意外すぎて。その体格で
軽自動車に乗ってるなんて」
ホテル近くのパーキングに止めた俺の
愛車を一目みるなり、愛歩は驚きを
隠さず俺を見上げた。
助手席に乗せて発進してもなお、この車が
俺のものだとは信じられないようだ。
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