第三章・あなたを知りたい

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「車なんて休みにしか使わないんだから、 軽で十分なんだよ。維持費だってばかに ならないし」 「で、でも! 宗佑さんは保科家の 息子さんだし……」 勢い良く言い始めた愛歩の言葉が途中で 尻すぼんで行く。だが最後まで聞かなく ても、彼女の言いたいことはわかる。 「あのな、確かに家は裕福かも しれないけど俺は違う。普通の サラリーマンだと言ったはずだ」 あの夜のことはあまり話題にしたく なかったが、この話の流れでは仕方がない。 話を向けると、愛歩は思い出した ようだったが、口にしたのは見当違いの 言葉だ。 「じゃあ、宗佑さんはまだ一般社員って ことなのね?」 「違う。俺はラスターとは無関係の、 別の会社に勤めているんだよ」 「……そうなの? 私、てっきり 宗佑さんもラスターでお仕事 してるんだと……」 愛歩が驚きの表情で、ふたたび俺を見た。 その表情から多くの人間と同じく、 彼女も俺が家業に従事していると 思っているのはわかっていた。 そして、そう思う人間は彼女が初めて ではないのに、なぜか必要以上にキツい 言い方をしてしまった。 ラスターファイナンスの経営陣が、創業以来 世襲されてきたことは知られている。 だからそう考るのは当たり前で、 愛歩は責められるようなことは、 何一つ言ってはいない。 現に俺は、今夜のように保科の人間 として人前に出る時もあり、そうすると 自然と誤解されることになるのだ。
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