第三章・あなたを知りたい

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そんなことはもう慣れっこで、誰にどう 思われようが大して気にも留めないのに、 俺はなにをむきになっているのか。 ただ、愛歩が世間と同じように、俺の 挑戦を知らずにいるのだと思うと、 言わずにはいられなかった。 くだらないプライドに拘って、子供 じみたことをして。 彼女がそれを知ったからといって、 なにが変わるわけでもないのに。 「悪い。こんなこと、君には関係ない ことだった」 「そんなことは……。でも、あの…… もし差し支えなければ、理由、聞いても 良い……?」 もしかして、愛歩はなにかを勘違い したのだろうか? とても言いにくそうにしながらも、 臆せず訊いてくる彼女を見て、つい 口元が弛んだ。 「べつにたいそうな話じゃないんだよ。 あの兄貴がいれば、会社は安泰だろう? だから、俺は外で自分の力を試そうと 思っただけで」 「そう……。自分の意思でそう決めたの なら、すごく立派だと思うわ。私なんか……」 そう言ったきり、愛歩は窓の外を見る。 急な態度の変化が気になったが、 なんとなく今は話しかけてはいけない ような気がして、俺はただ前を見て 車を走らせることにした。
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