第三章・あなたを知りたい

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「ごめん、君に言うべきことじゃなかった」 まったく、今夜の俺は失言ばかり。 勤め先では営業職の中でも会話の 巧みさには定評があるというのに、 日頃の自分からは考えられない失態だ。 気まずい雰囲気になってしまい次の 言葉を探していると、愛歩が寒そうに 肩をすぼめた。 秋も深まり、朝晩の空気はすっかり 冷たくなってきている。 ストールを巻いているとはいえ、 薄物のドレス姿の愛歩はかなり 寒いはず。 「もう家に入ったほうが良い。行こう」 紙袋を持とうと手を伸ばすと、愛歩は 後退しながら首を振る。 「いいわよ、そんなこと。 ほんの五、六メートルなんだから」 「いいから。ほら、行くぞ」 荷物を強引に奪い取り、背中を押して 歩を進める。と、家まであと二、三歩と いうところで突然目の前のドアが開いた。 出てきたのは白い服装の男性で、店先に 立つ俺達を見て目を丸くしている。 「愛歩か? どうしたんだその格好は」 白い服のその人は、白髪交じりの短髪で やや恰幅の良い男性だ。 年齢から察するに、彼女の父親だろう。
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