第三章・あなたを知りたい

12/17
前へ
/131ページ
次へ
*** 「二人とも、食事は済んだのか?」 外観同様に木をふんだんに使った素朴な 調度の店内は、薄暗い照明の中でも暖かな 雰囲気だった。 そんな店内を感慨深く見まわしていると、 カウンターの中から唐突に訊ねられた。 そういえば、開宴早々会場を出てきたから、 二人とも飲み物を少し口にしただけだ。 たった今まで平気だったのに、体とは現金な もので、気づいた途端に無性に空腹を感じた。 「そういえば何も‥……。ごめんなさい、 宗佑さん。お腹空いているわよね。お父さん、 何かある?」 「そうだな‥……。たいした物は できないが」 「それでも良いからお願いできる?  私はちょっと着替えて来るから、 宗佑さんはこちらに座っていて」 視線で俺の意向を伺いつつ、お父さんに 注文した愛歩が、カウンターに近い テーブルの椅子を引いて奥に消えていく。 お父さんと二人で取り残されて、どうにも 落ち着かない気分だったが、向こうは 準備に忙しいのか後ろを向いたままだ。 変に話しかけたりしない方が良いと思い、 黙って待つことにして椅子に座りかけた とき、道路脇に止めたままの車のことを 思い出した。 移動させておかないと、取り締まりが 来るかもしれない。 駐車違反の罰金なんて払うのも馬鹿ら しいし、何より営業職として減点は 困る。 「すみません。車を移動させてきます」 俺は慌てて立ち上がってコック服の 背中に告げると、お玉を持って振り返った お父さんが頷く。 「裏手にうちと提携しているパーキングが ある。そこに止めると良い」 「ありがとうございます」 アドバイスをもらい、急いで店を 飛び出した。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3303人が本棚に入れています
本棚に追加