第三章・あなたを知りたい

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車を駐車場に入れて店に戻ると、 店内には人の姿は無かった。 キッチンの中に居たお父さんの姿も 無く、俺は水の入ったグラスが用意された 席へ座ろうと椅子に手をかけた。 その時だ。愛歩の声が聞こえてきたのは。 「──その女の人、キングフーズの社長夫人 だと言ってたわ。私と同じ年頃の息子さんが いたから、まさかとは思うんだけど……」 聞くつもりは無かったが、急なことだった のでどうしようもなかった。 俺が戻ってきたことに気づいていない 愛歩は、なおも話を続ける。 席を外そうとドアへ向いかけた。 が、続けて聞こえてきた話が、 俺の足を止めさせた。 「この社長夫人って、お母さんじゃない?」 「……どうして、そう思う?」 お父さんに訊ねる愛歩の声は、震えている ように思えた。 姿は見えないが、気配から二人がなんとなく 緊張感が伝わってくる。 「どうしてって、保科さんのことをよく 知っているみたいだったのよ。それに、 顔立ちが兄さんに似ている気がして……」 「それだけでおまえはそんなことを考えたり しないだろう? 他にそう思った理由が あるんじゃないのか?」 これは他人が聞いてはいけない話だ。 これ以上聞いてはいけないと思い、俺は 急いで足を踏み出した。 けれども今の話を聞いて、俺はいくらか 動揺していたのかもしれない。 まるでコントのお約束のようにテーブルの 脚に躓いて、弾みで店内に大きな音が響いた。
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