第三章・あなたを知りたい

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当然奥で交わされていた会話は止まり、 すぐに愛歩が顔を覗かせた。 結果的に立ち聞きすることになって しまった俺は、素早くポーカーフェイスを 決め込んだが、心中は罪悪感で一杯だ。 「宗佑さん……聞こえてた?」 シラを切ることもできるのだろうが、 恐る恐る訊ねてくる愛歩を見ていると、 どうしても嘘をつくことができず、俺は 正直に立ち聞きを認めることを選んだ。 「悪い。すぐに外に行こうとしたけど……」 「そう──仕方がないわ。宗佑さんが 帰るまで待てなかった私が悪いのよ」 愛歩が肩を落として微笑む。 何か言ってやりたいが、家族の問題に 立ち入るべきではないと思うし、経緯を 知らない俺には言うべき言葉が見つから なかった。 「戻っていたのか……。さあ座って。 準備はできている」 何事もなかったように後から姿を見せた お父さんが、カウンターの向こうで促した。 さすがは年の功。 俺の立ち聞きのことには触れず、落ち 着いた態度でこの場を仕切っていく。 少々迷ったが、ここは言われた通り黙って テーブルに着くことにした。 「……」 「……」 それにしても──こんなに気まずい 食事は初めてだ。 お父さんが用意してくれたのは、 洋食屋にはよくあるメニューである ハヤシライス。 レタスやトマトを彩りよく盛り付けた サラダが添えられて、レモンの香りの ドレッシングがかけられていた。
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