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当然奥で交わされていた会話は止まり、
すぐに愛歩が顔を覗かせた。
結果的に立ち聞きすることになって
しまった俺は、素早くポーカーフェイスを
決め込んだが、心中は罪悪感で一杯だ。
「宗佑さん……聞こえてた?」
シラを切ることもできるのだろうが、
恐る恐る訊ねてくる愛歩を見ていると、
どうしても嘘をつくことができず、俺は
正直に立ち聞きを認めることを選んだ。
「悪い。すぐに外に行こうとしたけど……」
「そう──仕方がないわ。宗佑さんが
帰るまで待てなかった私が悪いのよ」
愛歩が肩を落として微笑む。
何か言ってやりたいが、家族の問題に
立ち入るべきではないと思うし、経緯を
知らない俺には言うべき言葉が見つから
なかった。
「戻っていたのか……。さあ座って。
準備はできている」
何事もなかったように後から姿を見せた
お父さんが、カウンターの向こうで促した。
さすがは年の功。
俺の立ち聞きのことには触れず、落ち
着いた態度でこの場を仕切っていく。
少々迷ったが、ここは言われた通り黙って
テーブルに着くことにした。
「……」
「……」
それにしても──こんなに気まずい
食事は初めてだ。
お父さんが用意してくれたのは、
洋食屋にはよくあるメニューである
ハヤシライス。
レタスやトマトを彩りよく盛り付けた
サラダが添えられて、レモンの香りの
ドレッシングがかけられていた。
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