第三章・あなたを知りたい

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美味しい料理も、罪悪感に加えて お父さんに見られているという事態が 重なっては落ちついて、ゆっくり 味わうことができなかった。 向いの席に座っている愛歩も、無言で スプーンを口に運んでいる。 彼女はどんな気持ちでいるのだろう。 気になるが聞くわけにもいかず、食べる ことに専念した。 「ごちそうさまでした」 沈黙の中で、どうにかすべてを らげてスプーンを置くと、見計らった ようなタイミングでコーヒーカップが 置かれた。 「君が来ると分かっていたら、もっと ましなものを用意したんだが」 「いえ、十分です。とても美味しかった です。ありがとうございました」 味わって食べることはできなかったが、 美味しと思ったのは確かだから、嘘は 言っていない。 俺が感想を言うとお父さんは頷いて、 空いた皿を持って奥へ行ってしまった。 すぐに水音がし始める。 その隙を突いて、小声で愛歩に言った。 「お父さんに挨拶したら俺は帰るよ」 「そう……ね。何だか変なことになって ごめんなさい。父は元々口数が少ないの。 怒っているわけじゃないから。念のために 言うけど」 「ああ、分かっている」 愛歩と話を合わせ終ったところで、奥から 聞こえていた水音が止んだ。
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