第三章・あなたを知りたい

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再びお父さんが姿を見せたので、 愛歩に言った通りに暇を告げた。 食い逃げみたいで申し訳ない気も したが、愛歩のためにも俺は早く 立ち去るべきだ。 「岡崎さん、ごちそうになりました。 僕はこれで失礼させていただき……」 「急いで帰らないと行けないか?」 腰を浮かせかけた俺に、お父さんが 被せるように聞いてくる。 「え、いえ、そういうわけでは。 ただ、僕はお邪魔でしょうし……」 愛歩もまさか、父親が俺を引き止める ようなことを言うとは思っていなかった のだろう。 驚いた表情で父親を見ている。 「急いでいないなら、君にも聞いて もらいたい。コーヒーのお代わりを 持ってこよう」 「お父さん、引き止めたらご迷惑だわ。 宗佑さんはもう帰るって言ってるんだし」 「私は彼に聞いているんだ。どうかな?」 「いや、急いではいないです。でも、 お話を聞かせていただくのは、僕では いけないと思うんです」 お父さんの初めのリアクションから、 俺が見合い相手と勘違いされているのは 感じていた。 ただ愛歩を送るだけだと思っていたから、 敢えて訂正しなかったのに、どうも 雲行きがあやしい。 兄と勘違いされたまま、重要な話を 聞くわけにはいかない。 そう思って言ったのに。
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