Prologue

2/8
3297人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
都心からやや離れた湾岸近くのホテル。 ホテル直営のカジュアルなイタリアン レストランは、土曜日の夜とあってか 店内はほぼ満席で、会話を楽しみながら 料理やお酒を楽しむ客で賑わっていた。 そんな中で向かいに座る親友の手から 滑り落ちたフォークは、金属特有の 甲高い音をたてて床の上に落ちた後、 数回飛び跳ねて動きを止めた。 その派手な音で何事かと、周囲の人達の 注目が私達に集まっているというのに、 当の本人はそんなことは少しも気に ならないようだ。 彼女は呆けた顔をして、私を凝視したまま。 数秒間が過ぎて、ようやく開いた口からも すぐには言葉が出てこない。 二、三回ぱくぱくと開け閉めを繰り返し した後、ようやく彼女は掠れた声を発した。 「……ねえ愛歩(あゆみ)。もう一度言って。 私の耳、おかしいのかもしれない。あなたが 結婚するって聞こえたんだけど」 「ううん、美咲(みさき)の耳は正常だと思う。 私は間違いなくそう言ったから」 顔を強張らせたままの親友に向かって、 淡々と告げる。 はっきりと肯定された彼女は、今度こそ事実を 受け止めたらしく、表情を驚きに変えた。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!