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都心からやや離れた湾岸近くのホテル。
ホテル直営のカジュアルなイタリアン
レストランは、土曜日の夜とあってか
店内はほぼ満席で、会話を楽しみながら
料理やお酒を楽しむ客で賑わっていた。
そんな中で向かいに座る親友の手から
滑り落ちたフォークは、金属特有の
甲高い音をたてて床の上に落ちた後、
数回飛び跳ねて動きを止めた。
その派手な音で何事かと、周囲の人達の
注目が私達に集まっているというのに、
当の本人はそんなことは少しも気に
ならないようだ。
彼女は呆けた顔をして、私を凝視したまま。
数秒間が過ぎて、ようやく開いた口からも
すぐには言葉が出てこない。
二、三回ぱくぱくと開け閉めを繰り返し
した後、ようやく彼女は掠れた声を発した。
「……ねえ愛歩。もう一度言って。
私の耳、おかしいのかもしれない。あなたが
結婚するって聞こえたんだけど」
「ううん、美咲の耳は正常だと思う。
私は間違いなくそう言ったから」
顔を強張らせたままの親友に向かって、
淡々と告げる。
はっきりと肯定された彼女は、今度こそ事実を
受け止めたらしく、表情を驚きに変えた。
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