Prologue

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彼女が怒るのはわかっていた。だから私は 突然降って湧いたこの結婚話のことを、 ギリギリまで彼女に話さなかったのだ。 怒りを爆発させた美咲が顔を背ける。 私は想像以上に彼女を怒らせて しまったみたいだ。 「美咲、怒らないで聞いて。家族は皆 止めたのよ。でも、私が自分で承諾したの。 もう何年も彼氏なんかいないんだし、 婚活の手間が省けたと思えば良くない? それが家族のためになるなら一石二鳥 じゃない」 顔を背ける続ける美咲の横顔に向かって、 できるだけ明るく、楽観的に言った。 これはこの話が持ち上がった時に、家族を 納得させるのに使った台詞だ。 事実、最後に男性と付き合ったのは四年も 前だし、二十六歳になった今でも、好きな人 どころか気になる人すらいない。 だから資金援助と引き換えの結婚を提案 された時、私はほとんど迷いなくイエスと 答えた。 「ばか、だから怒ってんのよ。ホントに わかってないわね。あなたは打算で結婚できる 女じゃないでしょ!好きでもない人とセックス できるの?元彼とは、まさにそれが原因で 別れたくせに!」 「美咲、声が大きいってば!」 公衆の場で出すべきではない、きわどいワードを 大声で話す美咲。制止しようとしたけれど、残念 ながら、もうすでに手遅れだ。
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