要害 新町屋の城

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 茅野家の庇護下のもと内密に海運事業にも乗り出した得能家は、とっても裕福な商人兼武家領主になることが出来たわけだが、さりとて悩みの種がないわけでも無く、そのもっともなるものが、國分川の交易権を黙認する代価として、兵や物資の無償運搬作業、軍資金である矢銭をしつこいほどに要求して来る。  守護職【国主家】の存在であった。  これの落差たるや、茅野家との良好過ぎる関係に比べれば雲泥の差で、季の松原城下は國分川の渡し賃の六割を搾り取る一方の国主様と、余計な事も言わず、大いに儲けさせてくれ密かに茅野家では武家にもしてくれた飯井槻さま。得能家の期待と信頼がどちらに重く大きく傾くのか、今更言うまでも無いだろう。  最近では、国主様の権威を嵩に来た深志家が、主人に成り代わり同じ待遇を要求して来ている始末なのだから、その怨嗟は計り知れない。  そんなこんなで兵庫介一行は、岸辺の舟着き場に舟が着く頃合いを見計らい、交代の為に待って居た水夫(かこ)たちに頼み、着岸した舟に先に乗馬を引き渡して次々と載せてもらった。  まもなく人と馬と荷で満載になった川舟は、いざという時には、武人に早変わりするであろう、これ見よがしに額と頬に刀疵(かたなきず)のある歴戦の武人めいた(いか)つい面をした船頭と、同じく屈強な兵に変わるであろう四人の水夫(かこ)らに操られて岸辺を離れ、目的地である新町屋城がある向こう岸へと水の流れに乗せ、ゆっくり船首を回頭させ出航していった。
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