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苛々とした気持ちが渦巻いて、早足に自宅へと突き進む。食事なんて行かなければ良かった。他の男の人と必要以上に話すと必ずこうなる。皆太陽くんを馬鹿にする。何も知らないくせに。偉そうに。
なんで放っておいてくれないの?
「みーちゃんっ」
耳に届いた声に、足を止めた。笑顔で手を降る彼がいた。
私達を隔てる道路を横切らずに横断歩道までしっかり歩き、私の進行方向からにこやかに走り寄る彼。
「おかえり! ごはん職場の近くだったんでしょう? 俺の方が早いと思ったのに、みーちゃんの方が早かったね」
「お疲れ様。美味しくなかったから、帰ってきちゃった」
二人で並んでマンションへと歩く。彼の職場は自宅から程近く、食事も近場の定食屋に行ったのだと言う。
「部長がさぁ、もう一軒付き合えってしつこかったんだけど、俺もう腹一杯で帰ってきちゃったよ」
ぽこりと突き出るお腹を叩きながら、参ったよと笑う。
「みーちゃん、ごはん楽しくなかったの?」
そして間をおいて、同じトーンで訊く。
「菜津美ちゃんの彼氏と、その男友達とごはんだったの。でも、ムカついたから。太陽くんのこと、会ったことも無いくせに馬鹿にした。不倫しようなんて言うようなクソ野郎と一緒の空気なんか吸いたくないわ」
口にするだけで胸糞悪い。吐き捨てるように答えると、太陽くんはそっかと軽く相槌を打つ。そしてポンポンと私の頭に手を置く。
「ありがとね。みーちゃん可愛いから、俺より損しちゃうなぁ」
自然と足を止める。泣きそう。
「なんだよ。ほら、おいで」
頭に触れる彼の手に促されて、少し汗ばんだ匂いのする胸板に顔をうずめる。彼は包み込むように私を抱きしめて、私は彼のシャツを握りしめる。
「俺の可愛い嫁さんを泣かすなんて、ひでぇ奴らだなぁまったく」
きっと行き交う人達の視線を浴びただろう彼の胸でひとしきり泣いて、もう大丈夫と見上げると、彼はにこりと微笑んだ。
「じゃ、ごはん食べに行こう。おなか空いてるでしょ」
「うん。焼肉食べたい」
「焼肉!? いいね! よし行こう!」
手を繋いで歩く。二人で笑う。嫌なことがあっても、太陽くんがいれば大丈夫。
「メイク直そうかな…」
「ぐしゃぐしゃなのも可愛いよ」
「もぉ! 太陽くんが良くても私は恥ずかしいの!」
全てを受け止めて、受け容れて、愛してくれる。
太陽くんは、世界の誰より。
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