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ビニール傘
彼女は傘を差さない。
朝の天気予報で傘マークが付いていても、玄関を開けた時点で空から雨粒が落ちて来ていなければ、傘を持って出ないのだそうだ。
理由は手が塞がるのが嫌だから。
「もし不測の事態が起こった時、手が塞がってたら対処できないじゃない」
どんな不測の事態を想定しているのかは分からないが、彼女はそう言い切っている。
だから外にいる時、急に雨に見舞われた場合は、否応なしにコンビニでビニール傘を買う事となる。濡れるのも、それはそれで嫌らしい。
折り畳み傘という手もあるのに、彼女はその存在を完全に無視している。アーティストとして活躍する彼女は、常日頃から世界に挑んでいるふしがあるのだ。
そんな彼女の彼氏である僕のアパートの玄関先には、彼女の置き傘がいっぱい。
下駄箱代わりのカラーボックスに3本引っ掛かっているし、そこに置ききれなくて、格子の付いたキッチンの窓の下にも5本並んでいる。
柄にAPOって書いてあって、半透明のが好みのようだ。
僕は床に、規則正しくそれを並べて眺めるのが結構好きで、それが今後増えていく光景を想像するのはもっと好きだ。
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