第二章 逡巡の途

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 言葉を詰まらせたアクアの前で、少しの間何かを思案していたらしいウィンが、話を再開する。 「その傭兵の話を信じる信じないは別として、君自身はどうしたいかな? セルミラートに行ってみたい気持ちはあるかね?」 「それは……」  直球な質問をされ、アクアは暫く固まってしまった。出生のこともあって、前からいつかミルオール大陸に行ってみたいという気持ちがあったのは事実だ。 「セルミラートは学問、軍事力とも水準の高い、実力主義の国だ。うちのリッケンも去年セルミラートの軍に仮入隊して、今年からは城で護衛官をしている。修練を積むには間違いなく良い所だと思うぞ」 「そうですよね。正直、興味はあります」  セルミラートは治安こそエレスリアほど良くないが、魅力も多い国である。密室をいいことに、つい本音が出た。  そしてその本音を聞いたウィンから、驚くべき話を持ちかけられることになる。 「君ならそう言うと思ったよ。もし行く気があるなら、俺の別荘を貸そう。学校管轄の宿舎もあることはあるが、アクアちゃんは家族も同然だから、特別にな。どうだ?」 「それ、本当ですか……!」  アクアは瞠目した。ちょっと相談に乗ってもらうつもりがここまで具体的な話になると、心の準備が追いつかない。 「別荘は今リッケンが使っているが、前もって連絡しておけば問題ない。貸せるだけの部屋はある」  レジェンドの話の次元に必死に付いていこうと試みるも、早すぎる展開にすっかり頭が置いてきぼりになっていた。  黄球へ行ったのだって相当な長旅だったのに、いわんやミルオール大陸をやである。
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