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(あ……っ)
先回りしてしゃがんだら、なぜか後ろに傾いてコロンと尻もちをついてしまった。どうやらこの廊下、少し傾斜しているらしい。
でもボールは座り込んだ私の膝に当たって止まり、それに慌てて飛びつく。
「や、やった……。拾った」
「拾ってねぇだろ。一緒に転がっただけだ」
その声に顔を上げると、見知らぬ男子生徒が呆れ顔で私を見下ろしている。
「取ってくれって声かけようとしたら拾い損ねて。先回り出来たかと思えばいきなり転がって。礼を言うにも微妙じゃねぇか」
腰からシャツが半分出ている所から見ても、今のお昼休みにこのテニスボールで遊んでいた人だろう。
「はぁ……、すみません」
え、なんで私謝ってるの?
それでも無意識にボールを差し出すと、その人はアーモンド形の目元をふわりと細め、ボールを持った私の手ごとギュッと握りしめた。
「ボールとじゃれてどうする。お前は猫か。タマか」
掴まれた手が引っ張り上げられて、私の身体が起き上りこぼしみたいにピョコッと立ち上がる。
目まぐるしく変わった風景にひとつ瞬きをすると、目の前には彼の澄んだ瞳と形の良い唇。
「い、いえ……美繭です」
思わず見とれてしまって、口から出たのは我ながらおかしな受け答え。
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