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俺は驚いた表情で妹のマユリを見た。マユリも俺と同じ動作をとっていたのだろう、ナイスタイミングで目が合った。が、マユリは俺と違って驚いた表情ではなく、新しいおもちゃでも手に入れたかのように目がキラキラと光り輝いている。どうやら小学校3年生にしてもう察しているようだ。マユリが口を開く。
「え!?誰だれ?もしかして彼氏?」
マユリのどストレートな質問に顔を赤らめる母親。俺は黙ったままだった。
「どうかな……。ちょっとの時間でいいから、会ってほしいの」
「キャー!会う会うーー!」
「和也はどう?会ってくれないかな……」
俺はご飯を勢いよくかきこみ、咀嚼しながら静かにコクっと一度だけ首を縦に振った。
それから2日後の晩ごはんの時に、母さんの彼氏、つまり後の新しい父親と会うことになった。彼氏を交えて皆で晩ごはんを食べようよ!とマユリが提案したのだ。
母さんの彼氏と会う約束をしたその日は、無理言ってアルバイトを休ませてもらい、母さんが作る晩ごはんをマユリと一緒に手伝った。メニューはマユリの大好きなカレーだ。いつもより一人分多い目に炊かれたカレーの香りは、3DKのボロアパートの隅々まで行き渡っている。
母さんの彼氏は夜の7時に来るらしい。時間が経過するにつれ、緊張が高まる。マユリもついさっきまではしゃいでいたが、少しずつ口数が減り、最終的に誰も話さなくなった。台所の壁に掛けている時計の秒針だけが、チッチッチッチ…と頑張って音を鳴らしてくれている。
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